2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【随筆】触

白い吐息が溶け込む師走の空気はピンと張り詰め、車のライトや看板の燈をキラキラと輝かせた。 僕の掌は人より温かいんだよ。心は冷たいのかな、突如思いついた変な誘い文句で君の右手を誘き出す。 それは雀を捕まえようと庭に餌を置き、つっかえ棒をして籠…

【随筆】吐

私の人生でこれ以上の底はないであろう。老いて身体の自由が効かなくなり挑戦できないならきっぱりと諦めがつく。 しかしこんな健全な体躯もってしても相変わらずある一点から先へ歩みを進めることはできず歯痒さで満ちる。 それは目の前で愛すべき妻が強姦…

【小説】山道 01

日中に降り続いた雨の影響でねっとりと湿り気を帯びた生乾きの道路を前照灯で照らしながら車は鬱蒼とした杉林の間を進んだ。 「タバコ持ってる?」祐二がヒデに言った。 「はい」ヒデはスタジャンの内ポケットからアカマルのソフトパッケージを取り出すと一…

【小説】妻と画家 01

ショーウィンドウのガラスのせいもあるのだろうかやたらきらびやかな店が何軒も軒を連ねる通りで男は女に近づいていった。 「すいません。モデルになっていただけないでしょうか。」 細めの紺のデニムに白のTシャツ、オリーブ色のミリタリージャケットをサ…

【随筆】 懺悔

全てが嫌になり俺は人との連絡を絶った。そうして自分に都合の良い人間だけを几帳面に周りに配置した。いや、人から見れば俺が輪の外に配置された事になる。 人は人を評価するだけの対象物にしか過ぎない。その頃の俺は人からの恩義も忘れて本気でそんな事を…

【随筆】問答

⚫︎やりたいこと無いのか? ⚪︎やりたい事か、無いわけじゃ無いがそれが本当にやりたい事かわからない。結構いくつもあるからなぁ。 ⚫︎そうか。確かに今すぐ死ぬってわけじゃないからな。明日も今日やたら無茶な事しなかったら生きてるだろうし、明後日も明日…