【随筆】桜

不安に怯え目が覚めた。
午前3時また中途半端な時間に起きた。
夢の中では友達が沢山いた昔懐かしい日々に戻る事ができる。
日常より夢の中の方が楽しい。こんな状況信じられない。

胸の内側にべったりと張り付いて離れない後悔。それは一歩み出せない焦り、恐れ、臆病者と罵る事で自分を奮い立たせる。だが意思とは反対に踏み出せない事実ばかりが蓄積していく。

全てあの日あの時下した決断のせい。
そうして今に何も働きかけずあやふやに日々を過ごす。生への冒涜。


酒に逃げてもその時ばかりで決定的な解決には至らない。そうして世界はまた東の空に馬鹿みたいにキラキラ輝く太陽を掲げる。今日も俺は太陽に見下される。


どーしようもない力に支配されたみたいでそれは振りほどく事が困難だ。

人にすがり人に弱みを見せられない為に嘘をついてきた。すると嘘の帳尻を合わせる事に精一杯になった。

弱い自分は人から批判されるかも知れない。見捨てられるかも知れない。人が怖いんじゃない。人から見放されるのが怖いんだ。僕は人に依存している。

だが僕は優しく手を差し伸べてくれる人の手を無理やり振りほどいた。その優しさに応える自信がなかった。


何に怯えているというのか。いつしか何から逃げているのかすらわからなくなった。ただただ逃げているという事実だけが日々に色濃く刻まれていく。

街行く人を眺めては何故笑っていられるのかと思い途方にくれる。遠く過去の記憶の中に答えを求める。俺も笑っていたんだ。答えはわかるはずだ。

弱さを溜め込む。吐き出す場所を求めていたのかもしれない。人一倍弱さを認識している。助けてほしい。そう素直に口に出せたらどんなに。

映画のワンシーンや本の中の1ページに感動しては涙を流す。最近は随分と涙もろくなった。感動の中にはいつも人間がいた。ほんとは人々と語り合いたい。ああだこうだ言い合えた時間は貴重な時間だったんだ。それにようやく気付く事ができた。

僕は無責任な毎日を生きる。
でも一方で責任を背負う事を嫌う。レスイズモア、シンプルライフ。かっこいい横文字を並べてみるがどれもチープに見えてくる。今の俺にとっては全て責任逃れに過ぎないのではないかと。

人と距離を置くことで人に依存する自分を解放したつもりだった。だけどどんどん自分を見失った。人間とは一人では生きていけないという事を実感した。

荒川の風に吹かれる。遠く川上から流れついた山から湧き出た一滴の水の集合体に触れる。12月の川の水は冷たい。水面に着陸するセスナ機の様に鳥が着水する。

風に吹かれる。
斜め上を見上げれば土手沿いを行き交う人々。西日に照らされ片側を真っ黒く塗り潰されて皆一様に顔が無い。


誰も傷つけない嘘ならついても良いだろ。そう言って何度も自分を傷付けていたんだ。

あの日に戻りたい。戻れない。友との邂逅。そんな日がいつか来るのか。
積もる話もあるだろう。その時は素直になれるか。


梅の花が咲くと僕の心はうららかな日々とは裏腹に焦燥感にかられる。
見たくもない桜をもう何年も見てきた。また一年が経ったのだ。この一年に何が残ったというのか。

無駄な事などないという。でもこれが無駄でなかったらこの日々には何の教訓を見出せば良いというのか。

僕は身体的には自由だ。だが終始塀の中にいるみたいだ。僕は見えない柵に周囲を取り囲まれているみたいだ。だからもしかしたら柵なんて無いのかもしれない。